カイコにおける二型精子の分化メカニズムについては、有核精子形成ラインから無核精子形成ラインへの切り換え要因を見出すことが中心課題である。その課題を解明する上で、精子形成ラインの切り換えが、(1)個体発生のいつ、(2)精子形成過程のどの段階で起こるか、の両面から明らかにした。一方、二型精子の意義は、精子形成の後半における精子そのものばかりでなく、体細胞系列のシスト細胞においても分化の兆候を発見したので、シスト細胞の機能ともあわせて考察した。 1.精子形成ラインの切り換えを再現する培養系では、体液を採取する個体の発生時期を厳密にすることによって、確立できる目途がついた。 2.染色体の行動とその行動制御に関わる細胞骨格の微小管および微小管形成中心の機能を有するガンマーチューブリンの分布、また染色体などの微細構造の観察から、精原細胞に二型はなく、精母細胞の二型の相違を明らかにした。最も早く現れる二型の分化の特徴は、減数分裂第一分裂の前期に相同染色体の対合の有無であることをつきとめたが、この現象に関わる候補分子を本種において同定するまでに至っていない。これが、今後の課題である。 3.精母細胞集団の周囲を取り囲むシスト細胞においても、二型の相違が精子形成の後半から現れることを組織化学的に明らかにした。シスト細胞は精巣を出る以前に崩壊するが、無核型ではシスト細胞の崩壊にともなって精子が束を解離するのに対し、有核型ではシスト細胞が崩壊した後も束化を維持する。さらに、有核型精子と束を解離した無核精子との共存が交尾雌への移送に必要であることを示唆する結果を得ている。シスト細胞もあわせた精巣内における精子形成過程の一連の現象から、無核精子は有核精子を補助する機能をもっことが推測される。
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