研究概要 |
これまでサトウキビ、サツマイモ、パイナップルの植物体内に生息する(エンドファイト)窒素固定菌をdinitrogenase reductaseをコードするnifH遺伝子のDNAをPCR法によって探索してきた。昨年度後半から窒素固定機能の発現を探索するため、nifH遺伝子のmRNAについて解析してきた。本年度はサトウキビについて2つの探索とサツマイモについて一つの探索を行った。 東京大学大学院農学生命科学研究科のガラス温室でポット(黒土)に栽培したサトウキビ(種茎は宮古島)について、生育後50日と100日に茎と根からRNAを抽出し逆転写反応を行った。大多数がBradyrhizobium属、一部がAzospirillum, Shinorizobium, Rhizobium属のnifH遺伝子の発現が確認された。同時に行った^<15>N希釈法による窒素固定の寄与率は100日目で23〜34%であった。 国際農林水産業研究センター沖縄支所(石垣島)の圃場で栽培2ヶ月目のサトウキビの茎と根からRNAを抽出し、逆転写反応を行った。逆転写反応産物を鋳型としてnifH遺伝子をPCR増幅し、得られたPCR増幅断片を大腸菌TAベクターにクローニングして塩基配列を決定したところ、茎と根の両方からGluconacetobacter diazotrophicus及びBradyrhizobium属のnifH遺伝子と相同性の高い配列が多く出現した。これらのことからサトウキビでは生育の初期からエンドファイトが窒素固定を行っていると強く推定された。 中央農業総合研究センター圃場(つくば市)で栽培した収穫期のサツマイモ(ベニアズマ)の葉、葉柄、茎および塊根から抽出したRNAよりRT-nested PCRによりnifH遺伝子断片を増幅し、塩基配列の相同性を検索した。cDNAより増幅した遺伝子断片をクローニングし、塩基配列の相同性を検索した結果、葉では2種のuncultured bacterium(未分離菌)のnifH遺伝子と、葉柄ではB.japonicumおよび未分離菌のnifH遺伝子と、茎ではBradyrhizobium sp.および未分離菌のnifH遺伝子と,塊根ではB.japonicumおよび5種の未分離菌のnifH遺伝子と高い相同性を示した。これらのことから、収穫期のサツマイモ体内では複数の窒素固定菌が窒素固定機能を発現しているものと推定された。
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