細胞傷害性T細胞(CTL)はウイルス感染細胞や腫瘍細胞を抗原特異的に殺傷する生体防御において重要な細胞であるが、その殺傷機構にはおもにパーフォリン依存性経路とFasリガンド依存性経路が存在する。細胞傷害顆粒内にはチャンネル形成タンパク質パーフォリンやセリンプロテアーゼグランザイムが貯蔵されており、細胞瘍害顆粒が標的細胞に放出されるとパーフォリンの働きによって細胞質に侵入したグランザイムがアポトーシスを誘導する。このパーフォリン依存性の細胞傷害経路はパーフォリンの不活性化や分解を誘導する液胞型H^+-ATPase阻害剤コンカナマイシンAによって選択的に阻害される。一方、サイトカインの一つであるFasリガンドは標的細胞上のFasに会合し、システインプロテアーゼプロカスパーゼ8を活性化しアポトーシスを誘導する。エポキシシクロヘキセノン誘導体(ECH)はプロカスパーゼ8の活性化を特異的に阻害し、抗Fas抗体やFasリガンドによるアポトーシスの誘導を抑制した。ECHはパーフォリンを発現していないCD4^+ CTLやコンカナマイシンAで処理したCD8^+ CTLによるFasリガンド依存性のDNA断片化や細胞融解を強く阻害した。しかしながら、ECHはCD8^+ CTLによるパーフォリン依存性のDNA断片化や細胞融解をほとんど阻害しなかった。グランザイムAやパーフォリンの発現量ならびにCD3刺激による細胞傷害顆粒の放出はECHによって影響を受けなかった。これらの結果から、ECHはパーフォリン依存性の細胞傷害経路を阻害せず、Fasリガンド依存性の細胞傷害経路のみを阻害する特異的な非ペプチド性阻害剤であることが明らかとなった。したがって、ECHはさまざまなCTLと標的細胞の組み合わせにおいてCTLの二つの主要な標的細胞殺傷機構を区別しうる有用なバイオプローブであると考えられる。
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