低温プロテアーゼは、洗剤添加酵素や食品加工用酵素としての利用が期待されている。南極産好冷細菌(Pseudoalteromonass sp. AS-11)が生産するサチライシン様新規低温プロテアーゼApa1の機能解析を行うと共に、Apa1の結晶構造解析に成功した(PDB ID、1V6C)。Apa1は、中温酵素サチライシンBPN'と比較してカゼイン基質に対する至的温度が20℃低く、10℃で4倍、0℃で6倍の活性を示した。さらに5℃における合成基質suc-AAPF-pNAに対する活性化エンタルピーは、BPN'より7.3kJ/mol小さく、活性化エントロピーは25J/mol/K負の値が大きかった。これらの結果は、Apa1が熱含量とエントロピーの小さな低温環境に良く適応していることを示している。Apa1の結晶構造を分解能1.8Åで明らかにした。Apa1分子全体は、サチライシンに相当する触媒ドメイン(残基1-210及び359-441の293残基)と挿入ドメイン(残基211-358の148残基)からなっていた。触媒ドメインはα-ヘリックス7本とβ-ストランド9本からなりサチライシンと良く似た構造をしていたが、挿入ドメインはα-ヘリックス3本とβ-ストランド11本を含む新規構造であった。挿入ドメイン主鎖の温度因子は、触媒ドメインより顕著に高く、よりゆらいだ構造をしていることが推定された。さらに、非対称単位中の2分子の構造を比較した結果、触媒ドメインと挿入ドメインの間でねじれが生じることが明らかになった。このApa1の構造解析結果は、活性部位と離れた位置にある挿入ドメインのゆらぎや触媒ドメインとの間でのねじれが低温での高い触媒活性に関与している可能性を示唆しており、酵素の構造ゆらぎと触媒活性の関係を理解する上で重要である。
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