研究概要 |
本研究では、多くの遺伝子発現を制御可能なレドックス制御系の構築、およびそれを利用した環境ストレス耐性植物の創製を目標とし、種々の解析を行ったので、以下にその要約を示す。 1)APXアイソザイムの遺伝子発現制御機構と細胞内レドックスの関連性の解析 a.APXの発現制御機構の解析 これまでに細胞質型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(cAPX)の発現制御には細胞内の過酸化水素レベルと光合成電子伝達系のプラストキノンのレドックス状態が関与していることが報告されている。しかしながらこの二つの因子がどのように関連しているかは不明である。そこで、葉緑体内の過酸化水素消去能を向上させた形質転換タバコにおけるcAPXの応答を野生株と比較した。その結果、形質転換植物では強光2時間後以降におけるcAPXの誘導が認められなかった。以上の結果より、cAPXの誘導の初期ではプラストキノンのレドック状態が関与しており、細胞内過酸化水素レベルは強光の後期におけるcAPXの発現誘導に機能していることが示された。 b.葉緑体型APXの選択的スプライシングによる転写後発現制御機構の解析 高等植物のチラコイド膜結合型およびストロマ型APXの植物特異的シス因子/SREを介した選択的スプライシング機構のトランス因子の同定を行うため、SREとGFPを連結したmini geneを導入したタバコBY-2細胞を作製した。現在この細胞へアクティベーションタギングベクターを更に導入し、GFPの蛍光を発する細胞のスクリーニングを行っている。 2)レドックス応答に関連した遺伝子の探索と抗酸化酵素遺伝子の発現調節機構の解析 cAPXを抑制したタバコBY-2細胞(cAPX-S1,-S2)を作製した。得られた細胞のレドックス状態を評価した結果、野生株に較べcAPX-S1および-S2は酸化状態にそれぞれシフトしていることが確認された。興味深い事に、cAPX-S1および-S2は野生株に比べ、熱および塩ストレスに耐性を示した。
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