ミトコンドリア複合体-Iの機能解明を目指して、同酵素の最強の阻害剤であるアセトゲニンの作用機構研究を開始した。アセトゲニンの活性発現に要求される重要な構造因子を同定することは作用機構研究に不可欠であるため、広範なアセトゲニン類を効率的に有機合成するための合成方法を確立した。合成した類縁体について線虫酵素のモデルとなるウシ心筋ミトコンドリア複合体-Iを用いて阻害活性を評価し、次のような点を明らかにした。 1)天然型γ-ラクトン環の存在、THF環の数および隣接する水酸基を含むこの部分の立体化学は重要ではない。 2)疎水性の高い側鎖の存在は必須ではない。 3)THF環部に隣接する二つの水酸基の機能は同等であり、いずれか一つあれば充分に活性が発揮される。 4)唯一重要な構造要因は、γ-ラクトン環とTHF環部は直接的にアルキルスペーサーと連結されていないと全く活性を発現しない。その際、スペーサーの最適な長さは、炭素13個である。 以上のことから、スペーサーによって規定されるγ-ラクトン環とTHF環のある特定の配置がアセトゲニンの活性発現に重要であることが明らかになった。γ-ラクトン環とTHF環は協調的に機能することにより、活性コンフォメーションを取っていることが示唆された。 次に、アセトゲニンの結合部位を同定するために、光親和性標識実験を開始した。γ-ラクトン環は、キノン環でも代替できることがわかったため、この部分に光分解性のアジドキノンを導入することとした。また、アルキル側鎖部分は大幅な構造修飾が可能であることがわかったため、この部分に蛍光検出を可能とするビオチンあるいは蛍光発色団を導入することとした。
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