植物は自然界に存在するほとんどの病原菌を認識し免疫システムを誘導する。我々はこれまで、イネと植物病原細菌Acidovorax avenaeの菌株間に存在する宿主特異性決定機構について詳細な研究を行い、この菌の宿主特異性にイネの免疫システム誘導が密接に関与することを示すと同時に、イネが非親和性菌の鞭毛構成タンパク質フラジェリンを認識して免疫システムを誘導することを明らかにした。そこで、本研究ではイネによるフラジェリンの特異的認識機構を分子レベルで明らかにすることを目的とした。まず、フラジェリン認識の特異性と認識部位に関する研究の結果、イネ非親和性・親和性菌株のフラジェリン間に存在する免疫システム誘導の特異性は、両フラジェリンに存在する糖鎖の違いに由来することを明らかにした。さらに、この特異的認識に関与する糖鎖は分子量540であり、フラジェリンの認識部位であるC末端側ドメイン内に存在するThr残基に結合していることが明らかになった。次に、フラジェリン分子と特異的に結合するイネのタンパク質についてyeast two-hybrid法で詳細に解析した。C末端ドメインのフラジェリン断片をbaitに用いて、イネcDNAライブラリーのスクリーニングを行ったところ、FIP50(flagellin interacting protein)と名付けたクローンがフラジェリンのC末端ドメインと特異的に相互作用することが示された。FIP50遺伝子は機能未知のタンパク質をコードしており、イネ細胞内では細胞質に局在していた。そこで次に、in vitroでのフラジェリンとFIP50の相互作用を免疫沈降とBIACOAを用いて解析したところ、FIP50はフラジェリンC末端ドメインとin vitroでも相互作用することが確認された。本遺伝子の発現はN1141菌株接種およびフラジェリン処理によってのみ時間経過と共に減少することなどを考え合わせると、FIP50はフラジェリン認識とその情報伝達において関与する分子であることが示唆される。
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