本研究は、食品や環境を起源とする脂溶性異物の生体への作用の包括的理解を目的に、食品の保蔵、加工、調理時において大量に生成されることが知られる酸化脂質に着目し、遺伝子及びタンパク質に対する化学作用、及び細胞内シグナル伝達を亢進するセカンドメッセンジャーとしての細胞生物学的作用などの観点からの詳細な解析を行い、慢性的曝露を想定した異物の生体への影響の詳細を明らかにすることを目的としている。本年度は、酸化脂質や環境毒物としての多環芳香族炭化水素などの脂溶性有害異物への防御を目的とした解毒酵素誘導性食品因子に関する研究を行い、生体防御に関わる解毒酵素遺伝子の発現誘導を亢進する機能性食品因子を選定するとともに、その誘導機構の分子生物学的解析、及びこうした食品因子の有効性・安全性のゲノム及びタンパク質レベルでの検証を行った。脂肪酸由来の短鎖アルデヒド性活性種である4-ヒドロキシ-2-アルケナール、及び4-オキソ-2-アルケナールに着目し、タンパク質、及び核酸の修飾機構を、600MHz核磁気共鳴装置(NMR)、及び高速液体クロマトグラフィー-質量分析装置(LC-MS)を用いin vitro実験系により詳細に解析した。一方、肝細胞株RL34を用い、短鎖アルデヒド、酸化コレステロール、酸化リン脂質、及び多環芳香族炭化水素など、食品あるいは環境起源の脂溶性化合物の細胞生物学的作用について、動物培養細胞を用いた解析を行い、シクロオキシゲナーゼ-2遺伝子を特異的に誘導する脂溶性化合物として4-ヒドロキシ-2-ノネナールを見出した。
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