研究課題
基盤研究(B)
ビタミンAの脳機能制御に対する役割を明らかにする端緒として、レチノイン酸受容体群と情動行動制御の関係に関して研究を進めた。まず、レチノイン酸受容体のアゴニスト投与後のマウスの情動行動解析を行った結果、不安行動及び社会的優位性の亢進が観察された。さらに、脳内のレチノイン酸受容体群の機能的役割を明確にするために、レチノイン酸受容体の野性型あるいはドミナントネガティブ変異型を前脳特異的に過剰発現するマウスを作製した。レチノイン酸受容体(RARα)前脳特異的過剰発現マウスではレチノイン酸応答遺伝子であるRARβの高発現が誘導され、野性型受容体の過剰発現によりレチノイン酸受容体を介する情報伝達経路が活性化されていることが強く示唆された。続いて、これら変異マウスの行動解析を行ったところ、レチノイン酸受容体に対するアゴニスト投与の場合と同様に、変異マウスには不安行動の亢進が観察された。次に核内受容体群による情動行動制御分子機構を明らかにするため、レチノイン酸投与後に発現変動する遺伝子を検索した結果、脳内セロトニントランスポーターmRNA量が低下することが明らかとなり、また、RAR過剰発現マウスの脳内においても、アゴニストを投与した場合と同様に、このmRNAレベルの有意な低下が観察された。さらに、Hela細胞を用いてセロトニントランスポーターのプロモーター解析を進めた結果、転写開始点から約200塩基上流にレチノイン酸に負に応答するエレメントが存在すること、また、この負の制御には転写調節因子Sp1が関与することが明らかとなった。以上の結果から、レチノイン酸情報伝達経路はセロトニントランスポーター遺伝子の発現制御を介して情動行動制御に関わると考察した。
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