研究概要 |
本研究では,きのこの毒成分に着目し,殺ハエ成分を含むきのこを利用する昆虫群集の特徴を捉えうことならびにその要因を解明することを目的としている。平成15年度から平成17年度の調査において,殺ハエ成分イボテン酸ならびにムッシモールを含むイボテングタケの訪茸群集相と羽化群集相に著しい違いがあることが明らかになった。特に,ショウジョウバエ科昆虫は訪茸群集相ならびに羽化群集相の両方に共通する昆虫群であるが,それぞれの群集によける種構成が明らかに異なっている。この現象を生ずる原因が,各ショウジョウバエ科昆虫種の殺ハエ成分に対する適応度の違いに基づくものであるか,実証を試みた。イボテングタケの羽化群集を特徴づけるショウジョウバエ科昆虫種としてDrosophila bizonata, D.angularis, D.brachynephros,訪茸群集相を特徴付ける種としてD.immigrans,ならびに果実食性のD.melanogasterを供試し,それぞれの昆虫を卵からイボテン酸もしくはムッシモール含有人工飼料を用いて飼育した。実験の結果,羽化群集相を特徴づけるショウジョウバエ科3種はきのこに含まれているよりも高いイボテン酸濃度(500micro-g/g)においても成長に影響を受けないことが示された。しかし,D.immigransならびにD.melanogasterではイボテン酸によって孵化ならびに成長・蛹化がつよく阻害されることが明らかとなった。また,D.immigransの方が,D.melanogasterに比べイボテン酸に対して,やや耐性を示すことが明らかとなった。以上の実験結果より,イボテングタケを利用する昆虫群集のうち羽化群集(子実体を食し成育する群集)はきのこが持つ殺虫成分に対して耐性機構を獲得していることが明らかとなった。また,イボテングタケを利用する昆虫相は毒成分イボテン酸によって制限されていることが示唆された。
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