過去に生産され蓄積している土壌有機態炭素(soil organic carbon:SOC)が、現在の炭素循環にどの程度影響をおよぼしているのか、また、C3植物を主体とする和歌山県の森林におけるSOCの動態を評価するために、SOCを物理化学的に分離し、それらの炭素安定同位体組成(・13C値)と14C濃度(・14C値)を測定した。 落葉・落枝(リター)とSOCの間の・13C値の違いは、どの土壌深度でも、4‰ほども見られた。この大きな違いから、日本の過去の植生にC4植物が存在し、その有機物が長期にわたって保存されている可能性を示唆している。さらに、SOCのどの画分においても、その・14C値はわずかに正または負の値を示しており、最近生産された有機物がほとんど残っておらず、古いSOCが長期にわたって保存されていることを示唆した。この選択的に新しい有機物が消費されている原因は、SOCに含まれている古いC4植物由来の有機物が物理的に保護されているためかもしれない。SOCの・13C値の鉛直分布は、中間の深度において増加から減少へと変化していた。これに加えて、砂画分の・14C値は、深い層でスパイク状の変動を示していた。深い深度における・13C値の減少傾向と・14C値のスパイクとは、溶存有機態炭素(DOC)の集積によるものかもしれない。 これらの結果から、ここで対象とした和歌山県の森林土壌においては、将来的な炭素貯留としての能力は小さいが、長期にわたる炭素リザーバーとしては大きいことが示唆された。
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