研究概要 |
本研究では、黄砂の森林への影響を評価するとともに,硫黄同位体比の違いをマーカーとして硫黄酸化物を識別し、その起源の特定および酸性化の寄与率を推定することを目的とする。研究初年度である今年度は黄砂を含む乾性降下物採取とトレーサー試験を行う試験区を森林総合研究所九州支所立田山実験林(コジイ林)と本館屋上(所在地:熊本市)に設定し、大気採取装置などの改良などを行うと同時に計測を開始した。成果の概要は以下の通りである 1.フィルターパック法による乾性降下物(エアロゾルとガス状物質)の採取をコジイ林で通年行った。今年度は黄砂の飛来が認められなかったため、2002年(最大の黄砂飛来年)の結果では、Ca濃度は黄砂時(3月下旬)には通常の7倍高い値をとる明確な季節変化を示した。 2.乾性降下物がコジイ林の樹幹流と林内雨に及ぼす影響を4説明変数(エアロゾル濃度,降水量,無降雨期間,林外雨成分)で解析した結果,林内雨のCa成分はエアロゾル濃度と高い単相関(0.548)を示した。Kはどの要因との相関が小さく,樹体からの溶脱の影響が大きいと推察された。Cl,Na,SO4は林外雨成分と高い相関を示した。樹幹流では重相関係数0.6以上はCl,Mgの2成分のみであった。 3.大気の硫黄同位分析に必要な大気採取量(SO4として最低0.8mgが必要)は146m3と算出された。これらの結果を考慮して,大気採取システムを構築し予備測定を行ったところ,エアロゾルの同立体比は2.7パーミル,SO2ガス同位体比は-2.1パーミルがえられ,両者に大きな違いが認められた。 4.水耕および土耕栽培のスギ苗に高い硫黄同位体比をもつ肥料(トレーサー)を与えた結果,水耕では針葉への硫黄の移動が認められたが,土耕では散布が短期間であったためか明確な結果が得られなかった。
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