研究概要 |
本研究では、黄砂の森林への影響を評価するとともに、硫黄同位体比の違いをマーカーとして硫黄酸化物を識別し、その起源の特定および酸性化の寄与率を推定することを目的とする。 今年度は昨年度同様九州支所立田山実験林内のコジイ林においてフィルターパック法で採取した乾性降下物(エアロゾルとガス)の硫黄同位体比分析および一般分析を行ったが、特にエアロゾルおよびSO_2ガスの硫黄同位体比の測定例を増やした。さらに、湿性降下物と乾性降下物のコジイ林への沈着量の推定を行った。成果の概要は以下の通りである。 1.エアロゾルおよびSO_2ガスの硫黄同位体比の平均値(最大値〜最小値)はそれぞれ3.9(2.7〜5.3)‰、-0.1(-2.1〜2.0)‰となり、両者に大きな違いが認められ、SO_2ガス同位体比はいずれも低い値を示した。また、これまでの研究から、雨水の硫黄同位体比や硫酸イオンについて以下のことがわかっている。平均値で硫黄同位体比は林外雨(4.2‰),林内雨(3.6‰),樹幹流(2.4‰)の順に値が小さくなった。一方,硫酸イオンの平均値は,林外雨(1.6mgl^<-1>),林内雨(3.8mgl^<-1>),樹幹流(6.4mgl^<-1>)の順に高くなり,硫黄同位体比と逆の傾向を示した。このことは森林内を流下する林内雨,樹幹流に硫黄同位体比の小さい硫酸イオンが徐々に負荷されることを示していた。以上の結果と今回の乾性降下物の硫黄同位体比の結果は、樹幹流、林内の起源は降水やエアロゾル以外にガス物質が大きく関与していることが示唆された。 2.黄砂時のエアロゾル濃度は夏の3倍高い濃度を示した。 3.物質収支モデルを使って乾性沈着の付加量を推定した結果、コジイ林での非海塩硫酸イオンの年間付加量は約7400mg・m^<-2>となり、湿性降下物と乾性降下物の割合はそれぞれ40%、60%と推定された。
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