筆者らはAlexandrium tamarenseより分離した細菌に微量の麻ひ性貝毒の存在を認め、毒の一次生産者が細菌であることを示唆した。しかし細菌の毒生産能は低く、時には検出されない場合もあり、細菌による麻ひ性貝毒の生産を疑問視する研究者も多い。筆者は毒が細菌の何らかの代謝の中間代謝物であるという考えの基に研究を進め、A.tamarenseより分離した細菌のhomogenateをインキュベートすると時間と共に毒量が増加する現象を見出した。本年度はhomegenateのインキュベーションにより生じる毒の同定を試みたが、機器分析を行うのに充分な量の毒量を確保することはできなかった。そこでその原因を検討したところ、homogenate中に毒を分解あるいは他の物質に変換する作用があることに気付いた。すなわち、毒標品をhomogenateに加えてインキュベートすると、短時間のうちに大半の毒が反応混合物から消失する。そこで毒が消失したインキュベート後の試料より調製したタンパク抽出物を麻ひ性貝毒に対する抗体を用いるwestern blotに付したところ、抗体と反応する複数のバンドが出現することを観察した。この事実は毒が細菌タンパクの一部に結合していることを意味する。毒標品を加えない場合にもインキュベートした後のタンパクには抗体と反応するタンパク成分が認められた。以上の事実は細菌中で生じた毒がタンパクに結合することにより吸収されていることを意味する。従って細菌による麻ひ性貝毒の生産を検討する場合、まず細菌による毒の吸収過程を明らかにしなければならないことが明らかになった。
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