研究課題
基盤研究(B)
開発問題は一般に、市場と国家というふたつの制度をどう組み合わせるかという問題として把握されるが、市場にだけ任せておいたのでは「市場の失敗」が生じるし、政府の介入には時に「政府の失敗」が付随する。特に情報の不完全性によるルールの不明確さや、政策遂行機関のレント・シーキング的行動による履行の不完全性は、低所得国における市場の失敗を国家によって是正することを困難としている。このような背景のもと、近年、共同体の果たす役割が再評価されている。農村金融においても市場や政府を補完する中間的組織があり、マイクロファイナンス(MF)を支えている。本研究は、上述の問題意識の下、ソーシャル・キャピタルと呼ばれる共同体が農村金融においてどういう役割を果たしているかを、いくつかの国を取り上げ、調査をベースにして検討したものである。本研究の主要な実績は(1)マイクロファイナンス(MF)の実態的分析にかかわる部分と(2)労働面における協同関係に関する調査分析の二つに分かれる。前者(1)については、MFの全体的動向を踏まえ、バングラデシュ、ベトナム、フィリピンのMFの現状と制約条件を、現地調査をもとにして論じた。3カ国の現地調査では家計調査票をもとに聞き取り調査を行った。ベトナムの場合には、NGOや社会政策銀行のMFの実施にあたって顧客選定や融資の手続き等で「集落」の役割が大きく、貧困者に対する金融サービス提供を支える面で集落が重要な役割を果たしている。しかし逆に、資金借入者がコミューンの裁量によって決定されるが故に、資金が必ずしも貧困者には流れていないことも明らかになった。またバングラデシュのグラミン銀行ではグループの債務連帯保証が、原則として個人の債務に変更されており、MFの事業拡大と経済進展の進行のもとで、融資におけるグループの役割が変化しつつあることが明らかにされた。またフィリピンではNGOのMFとして著名なCARDの融資においてもグループ貸出から個人貸出への変更がみられる。後者(2)は、カンボジアのタケオと沖縄波照間島における労働慣行を対象にしたもので、労働交換にみられるようなソーシャル・キャピタルの役割を、現地での克明な情報収集をベースにして分析した。2本の論文がこの点を論じている。労働慣行はソーシャル・キャピタルの具体化したものとして数量的に掘り下げた分析を行ったものである。
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