研究概要 |
近年,わが国の社会が大きく変革するなかで,農業政策は大きく転換した.これまで食料生産の向上と同時に,農業の副次的機能であった食料生産機能以外の多面的機能の発揮も大きく注目されるようになった.わが国のこれからの国土政策として都市と農村の共生・共存が重要な課題となっており,この多面的機能の発揮が重要な役割を果たすことが期待されている.本研究では,農業の多面的機能の中で,とくに(1)洪水緩和機能,(2)気候緩和機能,(3)土砂などの流出防止機能の三つの機能に注目し,調査フィールドを設けて現地調査と分析を行った.その結果,農業生産基盤である農業水利施設は,単に食料を生産する農業基盤としての役割だけではなく,地域の安全性や快適性などのサービスを地域全体に供給する地域基盤としての役割を果たしており,都市化・混住化の著しい地域において社会共通基盤としての役割がきわめて大きくなっていることを明らかにした. また,多面的機能を十分発揮するためには,社会共通基盤と同時に社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が重要な役割を果たし,農業水利施策では,従来の水利組合や土地改良区のような社会組織が活用できることも明らかにした.
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