植物細胞内の環境変動への応答の可視化には、共焦点レーザ顕微鏡が主に使われている。最近、実用化した多光子レーザ走査蛍光顕微鏡は、共焦点レーザ顕微鏡に比べて次の利点を持っている。すなわち、蛍光プローブを励起するための放射(励起光)に赤外域の放射を利用できることである。共焦点レーザ顕微鏡では、励起光に紫外線あるいは可視光を用いる。これらの波長域の光は光合成をはじめ、植物の生理的な反応を引き起こす。すなわち、観察手段が観察対象を変化させてしまうという破壊的な観察とならざるをえない。多光子レーザ走査蛍光顕微鏡は、800nm以上の波長の赤外域の放射を励起光として使用できるため、上記の意味での破壊性は回避できる。本研究では、多光子レーザ走査蛍光顕微鏡を使って植物細胞を観察するための技術開発を多面的に展開してきた。その中でも、大きな問題として残っていたのがクロロフィルの自家蛍光の問題である。本年度は、この残された課題と取り組んだ。特に照射レーザの強度と自家蛍光の関係に焦点をあてた。 供試植物にはホウレンソウを用い、プロトプラスト化した。多光子レーザ走査蛍光顕微鏡の励起波長を800nmとし、観察波長を、レーシオイメージングを想定して、560nm-610nmと620nm-660nmの2波長域とした。近赤外レーザの出力を、フル出力の5%、10%と5%刻みで上げていき、各々の場合のクロロフィルの自家蛍光画像を取得した。次の結果が得られた。レーザ出力が40%以下ならば、自家蛍光の強度は、取得可能な強度の5%以下に抑えられる。また、出力40%で5分に1回の観察で経時変化を追った結果、自家蛍光はほぼ一定の強度を保っていた。この結果は、励起光出力40%で観察し、自家蛍光分を観察蛍光から差し引くことで、プローブからの蛍光観察が可能であることを示唆している。
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