研究概要 |
(1)これまでの研究から,オーチャードグラスは東北北部から関東地域の各地で,裸地や路傍に自生集団を形成するが,その優占度は東北南部から徐々に下がることが分かっている。この優占度の低下には,夏の気温が関係していることが分かっているが,夏の気温がどのように優占度の低下を招く生理的メカニズムは解明されていない。今年度はまず,東北から関東にかけてのアメダス気象データー観測地の43地点でのオーチャードグラスの自生集団の優占度を調べ,夏の気温の何が優占度の低下を招くかを統計的に解析した。 (2)優占度は,7〜9月の平均気温と高い相関を示したが,日照時間や降水量とは相関を示さず,夏の気温が,最も優占度の低下に関係していることが確証された。優占度と各月の気温との相関をとったところ,9月の平均気温と9月の最高気温が最も高い相関を示し,夏が暑いというよりもむしろ,暑い夏が長く続くことがオーチャードグラスの優占度の低下に最も効いていることが分かった。 (3)東北北部から東北南部,関東北部に自生する16集団の種子を採取し,弘前の共通環境で育成し,個体の生長や種子の発芽特性を調べ,繁殖・生長特性に集団間で適応分化が生じているかを調べた。その結果,生長速度(RGR)には集団間に大きな差は見られなかったが,関東の集団で高温で成長速度が高くなる傾向が見られた。このことから,優占度の低い集団は近交弱勢による有害遺伝子の蓄積が生じ,衰退が起こるという仮説は否定された。逆に選択により高温に適した集団が残っていることが示唆された。繁殖特性は生長特性とは逆に,集団間で顕著な差が見られた。優占度の低い集団は,種子稔性が低く,種子重も小さく,繁殖能力が大きく低下していた。
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