本研究は、食肉の熟成・貯蔵過程や食肉を摂取した場合の生体(消化管)内におけるタンパク質分解物(ペプチド)が示す保健的な作用を解明することにより、食肉の知られざる保健的機能の一端を明らかにしようとしたものである。特に、本年度は、食肉や食肉製品の熟成・貯蔵中に、食肉タンパク質から生成する生理活性ペプチドに注目し、検討を進めた。 牛肉は通常、熟成過程を経て消費される食肉である。このため、熟成期間中に生成するペプチドの機能が注目される。ホルスタイン種去勢牛および黒毛和種去勢牛の内もも肉を10cm角程度に整形し、表面を殺菌した後、プラスチックフィルムで包装し、4Cで10週間貯蔵(熟成)し、その間の変化を観察した。その結果、貯蔵日数の経過と共に、タンパク質の分解と遊離アミノ酸含量の上昇、そしてACE阻害活性の上昇が認められた。さらに、代表的な非加熱食肉製品である生ハムを4Cで貯蔵した場合にも、ACE阻害活性が上昇することを見出した。これらの実験結果から、食肉や食肉製品の熟成・貯蔵中に生理活性ペプチドが生成することを初めて明らかにすることができた。 また、食肉の熟成・軟化促進に利用されるプロテアーゼであるパパインを食肉タンパク質に作用させた場合に、種々の生理活性ペプチドが生成することを見出した。その一例として、食肉の主要タンパク質であるアクトミオシンにパパインを作用させた場合、腸内有用ビフィズス菌の増殖を顕著に促進するペプチドが生成することを明らかにした。このようなペプチドは、機能性食品開発のための食品素材としても有望なものと思われる。
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