研究概要 |
中枢神経系に存在する数種のグリア細胞のうち,ミクログリアは脳マクロファージとも呼ばれ,障害を受けたニューロンを食作用により処理しているとされてきたが,最近ミクログリアが異常に活性化されることによって,逆にニューロンに障害を与えることがアルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となっている可能性が注目されている。一方で,アルツハイマー病発症率と血中LDL濃度の正の相関やHDLとの負の相関が疫学的に知られていることなど,リポ蛋白とアルツハイマー病の関連も注目されている。プリオン蛋白質断片やβアミロイドはそれら分子種のアグリゲーションに伴って活性化程度が異なることが最近明らかにされつつあるので,血清中に存在するリポ蛋白にもその効果が期待される。そこで本研究では,ラット血清より分離したリポ蛋白成分が培養ミクログリアの細胞機能にいかなる作用を及ぼすかについて検討した。 ラット血清のリポ蛋白成分の分離はSuperose6を担体とするゲルろ過クロマトグラフィーを用いて行った。溶出液のコレステロール含量と溶出位置から判断したVLDL,LDL,およびHDL分画を限外ろ過法で濃縮し実験に用いた。 (1)βアミロイドの添加によって、ミクログリアの細胞数およびミトコンドリアの活性は上昇する。(2)lovastatinを添加すると,ミクログリアの細胞数は低下し,ミトコンドリア活性はさらに顕著に抑制された。(3)3種のリポ蛋白成分のうち,HDL分画では細胞数が有意に減少しており,他の成分には有意な変化はみられなかった。(4)HDL分画によってミクログリアのミトコンドリア活性は有意に低下した。LDL分画にはわずかながら増強作用があった。(5)HDL分画を添加したミクログリアは貪食能が低下していたが,他の分画では対照と有意な差はみられなかった。 以上の結果より、血清HDL成分によってミクログリアの細胞数の減少およびミトコンドリア活性の低下がみられ,貧食能も低下していたことから,HDLにミクログリアの細胞機能を制御する作用があることが示唆される。さらに,コレステロール合成阻害剤によって細胞数やミトコンドリア活性が低下していたことから,ミクログリアの細胞機能調節にコレステロール代謝が関与していることが示唆される。
|