研究概要 |
中枢神経系に存在するミクログリアは脳マクロファージとも呼ばれ,障害を受けたニューロンを食作用により処理しているとされてきたが,最近ミクログリアが異常に活性化されることによって,逆にニューロンに障害を与えることがアルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となっている可能性が注目されている。一方で,アルツハイマー病発症率とアポEの種類や血中LDL,HDLとの相関が疫学的に知られており,リポ蛋白とアルツハイマー病の関連も注目されている。昨年度の検討で血清から調製したリポ蛋白HDLにミクログリアの貪食能を抑制する作用があり,逆にLDLにわずかながら増強作用が明らかとなった。 その後LDLにはミクログリアを刺激しNO産生を惹起する作用があることが判明し,さらに硫酸銅で酸化処理したLDLにはより強い作用があることも見出した。またこれらの検討の過程で血清成分には高分子(HDL分画)でリポ蛋白ではない成分(脱コレステロール処理で活性が維持される)が含まれており,それがNO産生刺激することが明らかとなり,現在その成分の単離を目指して研究展開を試みている。 プリオン断片(Pr106-126)のミクログリアへの作用は既に確認しているが,その凝集塊形成が必要なことが明らかとなり,細胞暴露前の処置方法についてさらなる検討を加えている。 一方,強い細胞障害作用が想定されている活性酸素(O_2^-)を処理する酵素superoxide dismutase (SOD)に関しては,アストロサイト細胞外に現れる活性(EC-SOD=Cu,Zn酵素)に注目し,その測定系の開発を試みた。生細胞の外液に,最も感度が高いとされるO_2^-検出試薬WST1をO_2^-産生系(キサンチン/キサンチンオキシダーゼ)と共に加え,還元発色の阻害程度から評価する方法は,96ウェルに培養したアストロサイトでも充分に摘要可能であった。プリオン分子内にCu^+のキレート部位を持つことから,正常プリオンの生理機能がSOD活性調節である可能性が指摘されている。現在,アストロサイトのSOD活性がLPS刺激により減少するという興味深い結果を得つつある。今後アストロサイトが産生する正常プリオンとプリオン断片の相互作用を含めて研究展開する予定である。
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