精子形成における減数分裂制御機構の解明の一環として、減数分裂前期で精子形成が停止するミュータントラット(系統名:TTラット、原因遺伝子:as)について、原因遺伝子の特定と機能解明を行った。 1.asホモ雄は減数分裂前期パキテン期で精子形成が停止し無精子症を発症する。ヘテロ雄およびホモ雌は正常である。as3ホモ精巣では、パキテン期精母細胞の細胞質にヘマトキシリン陽性の封入体様構造物が出現する特徴がある。連鎖解析の結果、as遺伝子座はラット第12染色体上の2.2Mbの領域に存在することが判明した。 2.免疫抑制剤結合蛋白質遺伝子Fkbp6欠損マウスにも精子形成異常が見られ、その所見はasホモ精巣と良く一致したことから、TTラットではFkbp6の発現に異常がある可能性が示唆された。そこで、TTラット正常精巣および異常精巣におけるこの遺伝子のmRNA発現および蛋白質の発現を検索した。その結果、異常精巣では正常と異なる分子量のmRNAの発現があり、蛋白質の発現は検出できなかった。TTラット異常個体のゲノムDNAを解析し、Fkbp6のエクソン8を含む領域の欠損を確認した。Fkbp6は前述の2.2Mbの領域に位置していることから、asはFkbp6の変異遺伝子であり、TTラットの精子形成異常はFKBP6の欠損によるものであると考えられた。 3.FKBP6は減数分裂で相同染色体の対合を支持するシナプトネマ構造の構成因子であり、この遺伝子の欠損は染色体の対合異常を引き起こすことをマウスで確認した。更に、XおよびY染色体の対合とX染色体の不活化に機能している可能性が示唆された。これらの所見から、asホモ精巣ではFKBP6の欠損により厚糸期精母細胞で起きる相同染色体の対合に異常が発生し、その結果、減数分裂が停止するため精子が形成されないものと考えられた。
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