研究概要 |
エキノコックスを含むテニア科条虫は主に食肉類を終宿主とするが,糞便検査において虫卵の形態から種を同定することは困難である。我々は,糞便内抗原および虫卵の検出によりエキノコックスの終宿主診断を行っているが,その補足診断法として,虫卵DNAの利用によるテニア科条虫種の同定法を検討した。エキノコックス属3種およびテニア属7種,合計39系統および分離株の虫体を用いてCO I領域の塩基配列を決定した。得られた配列とすでに報告されている各種テニア科条虫種の配列とを比較解析して,多包条虫特異プライマーE.mSP1-A&Bを構築した。70℃12時間加熱した多包条虫卵を用いてPCRを行ったところ、虫卵1個分のDNAテンプレートで増幅像が確認できた。また,適当な制限酵素を用いたCOI領域のPCR-RFLPにより,猫条虫(Eag I, Xho I),胞状条虫(SexA I),肥頭条虫(Sfc I),豆状条虫(Nsi I),羊条虫(Msl I)および多包条虫以外の包条虫3種(EcoR I, Hph I)が同定できる可能性が示された。 これと平行して,都市近郊でのエキノコックスの動物疫学を分析するため,札幌市北東部およびその周辺におけるエキノコックス媒介動物の生息状況および感染状況を調査した。キツネの営巣地の特定,キツネの捕獲・剖検,営巣地周辺でのキツネの糞便採集および野ネズミの捕獲・剖検を行った結果,キツネの営巣地6ヵ所の内5ヵ所からエキノコックスに感染していたキツネ(キツネ18頭中6頭)または糞便内抗原および虫卵陽性糞便が見つかった。野ネズミの調査ではエキノコックスに感染していた個体は見つからなかったが,好適な中間宿主であるエゾヤチネズミがキツネ営巣地周辺で生息していることがわかり,都市近郊でもエキノコックスの生活環が維持され,調査地にエキノコックスが定着していることが示唆された。
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