研究概要 |
北海道に蔓延する人獣共通寄生虫,エキノコックス(多包条虫)は成虫がキツネやイヌなどのイヌ科動物(終宿主)に,幼虫が齧歯類(中間宿主)に寄生し,人は終宿主から排泄される虫卵の摂取によって感染する。北海道ではヒトへの感染源となるキツネの感染率が40%前後を推移し,札幌市など大都市にも感染個体が侵入して定着している。また,北海道の飼育犬の0.3-0.7%に感染が認められたことを受け,2004年10月から獣医師によるエキノコックス感染犬の届け出制が施行された。本研究は,DNA診断を取り入れた終宿主(キツネ・イヌ・ネコ)診断システムの改善,および,これを利用した都市近郊での感染環の解明と都市部のリスク評価を目的に遂行された。DNA診断の研究においては,特異的プライマーを用いたPCR法あるいはPCR-RFLP法により,形態的に区別が困難なエキノコックス属虫卵とテニア属条虫虫卵の鑑別が可能となった。また,駆虫と組み合わせることにより,感染初期で虫卵排泄前の動物に対する確定診断法への可能性が示された。さらに,現在キット化を進めている糞便内抗原検出法の評価を国内外の材料を用いて検討しその有用性を示した。調査期間中,エキノコックス虫卵を排泄している猫を日本で初めて診断,報告した。都市部近郊での疫学調査においては,札幌市内や小樽市内に生息するキツネが高率に感染していること,キツネの営巣地選択に嗜好性が見られ,これを利用して地図化することにより,キツネが多く出没する地域,すなわち,エキノコックス症感染リスクマップを作成できる可能性を示した。
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