ダニを始めとする吸血昆虫類は、吸血を維持し、また宿主の拒絶反応から逃れるため、唾液中に様々な生理活性物質を分泌している。これらの中には、優れた抗血液凝固剤、抗炎症剤あるいは免疫抑制剤様の作用を示す分子が含まれていることが報告されている。本研究では、吸血中のダニ(Haemaphysalis longicornis)より唾液腺を採取し、発現している遺伝子を解析することによって、これらの有用な物質をコードする遺伝子を同定することを試みた。 現在までのところ、約450の発現遺伝子の解析を終えている。このうち、blastX(NCBI)による相同性検索により機能予測ができたものは全体の約4割であった。その大半は細胞の生存に必要な遺伝子であったが、血液凝固作用を示す物質として既知のトロンビン活性阻害物質、宿主の外因性血液凝固阻害物質に近似した物質及び種々の活性を持つと考えられる複数のプロテアーゼインヒビターをコードする遺伝子を得ることができた。また、組織溶解活性を持ったプロテアーゼや、免疫抑制作用が報告されている他のダニ由来の物質に類似した物質等をコードしている遺伝子も得ることができた。 残りの機能不明な遺伝子も、その大半が分泌シグナルを持っており、宿主体内に注入され何らかの機能を発揮している物質であることが推測された。そこで、今後は、機能予測のついた遺伝子を蛋白発現してその機能を確認していくとともに、これらの機能不明な物質の解析も行うため、酵母の系を用いた蛋白発現を行い、ELISA等を用いてその機能を検索、同定していく予定である。
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