ダニワクチン抗原の候補を探索する方法としてcDNAライブラリーを用いた発現遺伝子解析法(EST法)がある。今回、ダニ由来有用物質を検索するため、フタトゲチマダニ(H. longicornis)吸血中のダニの唾液腺で発現している遺伝子のEST解析を行った。得られた653遺伝子を解析したところ、blastXによる相同性検索により機能予測がなされたものは全体の35%であり、その大半は細胞の生存に必要なハウスキーピング遺伝子であった。生理活性を有すると予測された蛋白配列中には、既知の抗血液凝固物質(madanin 1)や抗炎症物質、免疫抑制作用物質と類似の配列が含まれており、これらの遺伝子の多くが分泌シグナルを併せ持つことから、宿主体内に注入される物質であることが示唆された。 分泌シグナルを持ち、宿主に注入されて何らかの生理作用を示す物質であることが示唆された蛋白遺伝子の中から、転写コピー数の多かったものを6遺伝子(c-1〜c-6)ピックアップし、ダニの吸血ステージに伴った発現量の変化を調べた。未吸血、吸血直前(宿主刺激あり)、吸血後3日、吸血後6日及び飽血後の5時点で比較したところ、いずれも吸血後3日(c-1では3日及び6日)に最も高い発現量を示し、吸血前や飽血時の発現量はごく僅か(あるいは検出限界以下)であった。また、いずれも中腸においてはその発現が観察されず、宿主に注入されることによって吸血の維持に関与している生理活性蛋白であることが示唆された。 また、他種のダニ(Dermacentor andersoni)で免疫抑制作用が報告されている蛋白質(Da-p36)の類似遺伝子を大腸菌に導入して発現し、その組み換え蛋白(HL27)の機能を調べた。インビトロにおけるリンパ球の増殖抑制試験を行ったところ、HL27濃度0.1ppmでリンパ球のコンカナバリンAに対する増殖反応の有意な抑制が観察された。さらに、HL27濃度10ppmではリンパ球の増殖反応はほぼ完全に阻害され、Da-p36同様の免疫抑制作用を持つことが示された。
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