光線力学療法(PDT)は、腫瘍親和性の光感受性物質を腫瘍動物にあらかじめ投与し、その後に光励起することによって腫瘍を消退させる新しい治療法である。 本研究では、組織透過性が高い690nmの吸収波長を有する第二世代の光感受性物質であるBPD-MAを動物の腫瘍に対するPDTに適応するため、基礎的および臨床学的研究を行った。 腫瘍細胞に対するBPD-MAの光物理化学的反応について、げっ歯類の異なる4種類の腫瘍細胞を用いてin vitroで検討した結果、腫瘍細胞の種類、光感受性物質の濃度、あるいは照射光量を示すフルエンスなどの様々な要因の影響を受ける事が明らかとなった。In vivoでは、BPD-MA投与開始3時間後にPDTを実施した群に比べて、15分後にPDTを行う抗血管PDT群の方が血流の遮断とそれによる抗腫瘍効果がより強いことを示した。犬の臨床治療試験例において、血中のBPD-MA濃度の推移を検討した結果、BPD-MAは急速に代謝されるため、光照射を短時間で終了する必要があるものの、排泄が速くて蓄積性が低いため、繰り返してPDTを行うことが可能であると判断された。19症例の頭部腫瘍の犬に0.5mg/kgのBPD-MAを静脈内に10分間かけて投与し、投与開始15分後に光照射を実施する抗血管PDTの結果、従来の放射線療法や抗がん化学療法などに比べてより良好な治療結果を得た。さらに血管造影CT法は、腫瘍血管構築網を描写することができるため、抗血管PDTの適応症例の選択および治療効果の判定に極めて有用な方法になり得る事を明らかにした。 以上の通り、小動物の悪性固形腫瘍の治療において、BPD-MAを用いた抗血管PDTは反復実施可能で顕著な副作用も少なく、治療効果の高い新しい治療法になり得ることを示した。さらに、血管造影CT法は、抗血管PDTの適応症例の選択と予後診断に有用な情報源となり得ることを明らかにした。
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