研究概要 |
本研究では小動物の自然発生腫瘍に対する新規抗癌治療の開発を行うことを最終目的としているが,今年度は以下の点を中心に遺伝子治療の基礎研究を行った。 1.遺伝子導入による腫瘍細胞における細胞死の誘導 本年度は、我々の研究室で作製したイヌp53遺伝子発現アデノウイルスベクター(AxCA-cp53)およびantisense-mdm2遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター(Ad-m2a)を中心に研究を行った。 AxCA-cp3のin vitroにおける抗腫瘍効果の検討:AxCA-cp53のin vitroでの抗腫瘍効果を、イヌの骨肉腫細胞株(HOS、OOS)および乳腺腫瘍細胞株(cHMp、cIPm、cNMm)を用いて検討した。AxCA-cp53はいずれの腫瘍細胞株に対しても明らかな増殖抑制効果を示したが、この効果は、腫瘍細胞におけるp53遺伝子の変異の有無に関わらず認められ、アデノウイルスの感染効率に依存することが示された。またこのAxCA-cp53による細胞増殖抑制は、G1期での細胞周期の停止およびアポトーシスの誘導によるものであることを証明した。 Ad-m2aの作製およびin vitroにおける抗腫瘍効果の検討:イヌmdm2 cDNAの全領域をantisense方向にアデノウイルスベクターに組み込んだAd-m2aを作製した。Ad-m2aをイヌの骨肉腫細胞株(HOS、OOS)および乳腺腫瘍細胞株(cHMp、cIPm、cNMm)に感染させたところ,MDM2タンパクの発現低下およびアポトーシスの誘導を伴う細胞増殖抑制効果が認められた。またAxCA-cp53とAd-m2aの同時感染を行ったところ、単独感染に比較して強い細胞増殖抑制効果が認められ、MDM2タンパクの発現低下およびP53タンパクの発現誘導が確認された。 telomerase reverse transcriptase (TERT) geneのクローニング:腫瘍の不死化に関与し遺伝子治療の標的分子の一つと考えられているTERTについて犬および猫についてcDNAのクローニングを行い,腫瘍細胞における発現について検討を行った。 2.免疫寛容破壊を基にした免疫遺伝子治療 免疫寛容破壊を誘導するためには,強力なアジュバンドが必要とされる。化学的なアジュバンド以外に免疫を増強させる方法として,共刺激分子を用いる方法がある。今年度はその一環として,犬のCD80分子に関して基礎的な検討を行った。具体的にはアレルギー疾患におけるCD80分子の動態について検討した。
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