研究課題
オボアルブミンは、セリンプロテアーゼ阻害能をもつセルピンと祖先を共通にするが、阻害機能をもたない。そこでロジカルな設計に基づく変異を加え、本タンパク質に阻害活性を付与するための研究を行った。申請者らは、オボアルブミン変異体R339Tでは、この部位がヒンジとして働きelastaseによる活性サイトの切断後、阻害活性に不可欠のステップであるループ挿入を起こすことを結晶構造解析により証明した。この発見は、オボアルブミンに阻害機能を付与するための一つの到達点となったが、活性セルピンでみられるような酵素との1:1の化学量論的な阻害活性は未だ認められない。そこで、さらなる変異をロジカルに設計するために、平成15年度の本課題研究でproteinaseにより切断を受ける活性サイトをtrypsin感受性にしたオボアルブミン変異体(A352R/R339T)を調製し、ループ挿入の速度をHPLCを用いて高精度に分析する手法を確立した。ループ挿入速度の高速化が、proteinaseの阻害活性の獲得に直接つながるため、ループ挿入速度を速めるための更なる変異実験を行った。オボアルブミン変異体R339Tの結晶構造を、阻害活性をもつセルピンの構造と比較すると、ループ挿入に必要なストランド3Aと5Aの間の開放に必要な、β-シートAの柔軟性に対し、抑制要因となる構造が見つかる。そこで、これらの抑制要因を除くためさらなる変異体として、K290T/R339T/A352RとR104A/A339T/A352R、及びS-S結合を切断したR339T/A352R(SH-R339T/A352R)を調製した。上記のHPLC法を使ってループ挿入速度を測定した結果、ループ挿入速度はA352/R339Tに比べ、K290T/A352R/R339T、R104A/A352R/R339T、SH-A352R/R339Tで、それぞれ1.5、3.7、および6.7倍も上昇することが分った。これらの結果は、ループ挿入反応の遷移状態では、β-シートAが開いた構造をとるモデルに一致した。これにより、オボアルブミンにセリンプロテアーゼ阻害能を付与するための論理基盤が確立された。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry (発表予定)
Journal of Molecular Biology (発表予定)