研究概要 |
コムギの低温ショックタンパク質WCSP1はコムギの低温馴化過程で高度に蓄積され、大腸菌中では、大腸菌低温ショックタンパク質の機能変異を相補し、RNAシャペロン活性を示す。本研究では、WCSP1のもつRNAシャペロン機能を試験管内で証明するため、部分的相補性を持つ2本鎖オリゴDNAを合成し、片方の鎖の5'末端をFITC蛍光分子で標識し、もう片方の鎖をクエンチャー(BHQ)で標識した分子ビーコンを作製した。この2本鎖DNA分子はアニール状態ではFITCの蛍光がクエンチャーに吸収され、見かけ上蛍光が観察されないが、1本鎖解離状態ではクエンチングが起きずに蛍光が検出される。このシステムを利用し、試験管内系を用いて、RNAシャペロン機能に必要な核酸融解活性の検出を行った。その結果、WCSP1はATP非依存的に、DNA二本鎖を一本鎖に解離する核酸融解活性を示した。試験管内系においてもWCSP1が低温時のRNAがとる安定高次構造を解除するRNAシャペロンとして機能することが示唆された。更に、WCSP1タンパク質のRNA結合モチーフの変異タンパク質は,核酸に対する結合,核酸融解活性をともに消失したことから、RNA結合モチーフがWCSP1の機能に必須であることが示された。次に、WCSP1の細胞内局在性をGFP融合タンパク質として発現させて検討した。その結果からWCSP1は小胞体及び核内に局在し、小胞体への局在にはWCSP1のC末端側グリシンリッチ、CCHCジンクフィンガー領域が必要であることが判った。従ってWCSP1の植物細胞内での機能として、粗面小胞体上での翻訳過程或いは核内でのrRNA,mRNAの成熟過程に関与するタンパク質である可能性が示唆された。
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