本研究では、水を反応媒体として用いる有機合成反応の開発研究を行った。水系媒体中での有機合成反応は、従来主に用いられてきた有機溶媒中での合成反応と比較して、有害かつ高価な有機溶媒の使用を低減化できることや、溶媒・反応基質等の脱水乾燥の必要が無いことから簡便な操作で反応を行うことができるなどの利点を持つ。更に、有機溶媒中では実現できないユニークな反応性・選択性がしばしば観察されることから、学術的にも大変興味深い研究分野である。一方、触媒は、極少量で多量の生成物を生産できる化学反応促進剤であり、触媒を用いる触媒的有機合成反応は、環境調和型化学反応プロセスの実現に欠かせない手法である。したがって、水系媒体中での触媒的有機合成反応は、その実現のための有効な方法論が見出されれば、社会的影響は極めて大きい。 本年度に得た研究成果は以下の通りである。 (1)水系溶媒中での触媒的不斉ヒドロキシメチル化反応を進行させる優れた触媒を開発した。光学活性配位子としてキラルビピリジン型配位子を用い、Lewis酸性金属としてスカンジウムトリフラートを用いることで、種々のケイ素エノラートとホルムアルデヒドとの反応が、高いエナンチオ選択性で進行することを明らかにした。これは、ケイ素エノラートとホルムアルデヒドとの触媒的不斉反応の初めての成功例である。本反応では、市販のホルムアルデヒド水溶液を直接使用できるため、反応を安全かつ簡便に行なうことができる。また、キラルビピリジン型配位子の新規合成法を確立した。 (2)水のみを反応溶媒として用いる触媒的不斉Mannich型を開発した。これまで、水と有機溶媒との混合溶媒系で機能していたキラル触媒の構造を修飾することにより、従来困難であった水のみを溶媒とする本反応が可能となった。
|