本研究では、水系溶媒を反応媒体として用いる有機合成反応の開発研究を行った。水系媒体中での有機合成反応は、従来主に用いられてきた有機溶媒中での合成反応と比較して、有害かつ高価な有機溶媒の使用を低減化できることや、溶媒・反応基質等の脱水乾燥の必要が無いことから簡便な操作で反応を行うことができるなどの利点を持つ。更に、有機溶媒中では実現できないユニークな反応性・選択性がしばしば観察されることから、学術的にも大変興味深い研究分野である。一方、触媒は、極少量で多量の生成物を生産できる化学反応促進剤であり、触媒を用いる触媒的有機合成反応は、環境調和型化学反応プロセスの実現に欠かせない手法である。したがって、水系媒体中での触媒的有機合成反応は、その実現のための有効な方法論が見出されれば、社会的影響は極めて大きい。 本年度に得た研究成果は以下の通りである。 鈴木一宮浦クロスカップリングは、ビフェニル類の合成において重要な反応である。我々は、高度に官能基化されたオリゴアレーン類の合成法の開発の過程で、ヒドロキシフェニルボロン酸のピナコールエステルと、アリールトリフラートとの鈴木一宮浦カップリングの検討を行った。その結果、溶媒として水-THFの混合溶媒を用い、触媒として酢酸パラジウムとジシクロヘキシルホスフィノビフェニルを用い、さらに塩基としてLiOHを用いたときに、反応が高収率かつ高速で進行することを見出した。本反応を鍵反応とし、官能基化されたオリゴアレーンの二段階繰り返し合成法を確立することができた。また、根岸カップリングを鍵反応とする二段階繰り返し合成法も確立した。これらの手法を用いて合成されるオリゴアレーン類は、触媒としての利用が期待される分子群である。
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