ビリジオフンジン、シナトリン、トラキスプ酸などの長鎖アルキル置換クエン酸天然物は、セリンーパルミトイル転移酵素阻害、フォスフォリパーゼA2阻害、腫瘍細胞のヘパラナーゼ阻害、スクワレン合成酵素阻害等の強力且つ特異的な酵素阻害活性を有し、コレステロール低下薬や抗腫瘍剤等の医薬開発リードとして非常に大きな関心がもたれている。しかし、その共通単位である置換クエン酸構造の一般キラル合成法は未だ確立されておらず、4級不斉中心を含む高度に官能基化された置換クエン酸構造を高エナンチオ選択的に構築する方法論の開発は、有機合成化学ならびに創薬化学の観点から大きな意義をもつ。そこで、本年度も昨年度に引き続き、触媒的不斉Baylis-Hillman反応と不斉向山アルドール反応に基づく置換クエン酸構造構築法について検討した。その結果、γ-アルコキシ-α-ケトブタン酸エステルとヘキサフルオロアクリラートとの不斉Baylis-Hillman反応では、エナンチオ選択性が70%eeを超える条件を見いだすことはできなかった。この結果は、今後、アディティブ等の検討が必要であることを示唆している。一方、(t-Bu-box)Cu(II)等のEvansの不斉触媒を用いるγ-(p-メトキシベンジル)-α-ケトブタン酸ブチルエステルの不斉向山アルドール反応に関しては、昨年度に単純なシリルケテンアセタールでは目的とするアルドール生成物が60%、97% eeで生成することを見出したが、種々の置換シリルケテンアセタールとの反応では好条件を見いだすことができなかった。今後、触媒、反応系について詳細に検討する必要がある。さらに、置換クエン酸天然物ビリジオファンジンAの全合成を検討し、オレフィンクロスメタセシス反応に基づく短工程合成法を確立し、最初の不斉全合成に成功した。
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