研究概要 |
前立腺癌は中高齢の男性に特有の癌で,ライフスタイルの欧米化に伴い,近年日本においても急増し,超高齢化社会における大きな問題となっている.特に再燃癌の予後は悲惨であり,早期発見が治癒への必要不可欠な条件とされている.現在,前立腺癌予後診断には血中前立腺特異的抗原(PSA)のスクリーニングが汎用されているが,PSAは組織特異的抗原であり,良性の前立腺肥大症などとの区別はなされない.さらに病理組織検査でもこれらの識別は困難であり,臨床診断,治療法開発上の大きな隘路となっている.これに対して,最近アンドロステンジオール(A-diol)のエストロゲン及びアンドロゲン活性が報告されると共に,前立腺癌増殖あるいは再燃への関与が強く示唆されている.以上の背景を基に本研究は,各種抱合体を含むA-diol及び関連物質の超高感度分析法を開発し,前立腺癌予後診断用バイオマーカーを確立,臨床診断へ応用,キット化,更には新規治療薬の開発を行わんとして計画されたものである. 副腎由来アンドロゲンは血中で主に硫酸抱合体として存在しているが,A-diolのそれについては位置異性体が存在することからも不明な点が多い.そこで,本年度はA-diolの3位及び17位硫酸抱合体を調製し,次いでこれらを標品として血中における抱合体を同定ついで定量法を確立した.いずれも高極性,不揮発性化合物の分析に威力を発揮するLC/MSにより行い,前者に関しては3位抱合体がほとんどであることを明らかとし,後者に関しては安定同位体を内標として病態との関連にも検討を加えた. また,代表的男性ホルモンであるテストステロン,ジヒドロテストステロンの血中定量法の開発を目指して,LC/MS用誘導体化試薬の開発も行った.
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