細胞膜マイクロドメイン(脂質ラフト)はインスリンシグナル伝達における重要な場として認識されているが、そのインスリン抵抗性における病原的な役割としては未だ調査されていない。ショ糖密度勾配遠心法により低比重画分に集積する界面活性剤抵抗性画分(DRMs)はコレステロール、糖脂質および様々なシグナル伝達分子を含んでいる。TNFαは2型糖尿病においてインスリン抵抗性を惹起する因子として知られているが、その作用メカニズムは完全には理解されていない。我々はTNFα処理を行った3T3-L1脂肪細胞において糖脂質ガングリオシドGM3が選択的に発現亢進することを確認し、GM3に特異的な機能があると推察した。DRMsでは未処理の3T3-L1脂肪細胞に較べTNFα処理細胞においてGM3の発現量が2倍に亢進していた。この時、インスリン受容体(IR)のDRMsへの集積の低下が見られ、カベオリン、フローチリンの集積に変化は無かった。さらにTNFα処理細胞では、インスリン依存的なIRの細胞内移行およびIR substrate 1(IRS-1)の細胞内局在の変化が顕著に抑制され、IR-IRS-1結合シグナリングの低下が見られた。GM3の発現抑制はTNFα処理によるIRの細胞内移行の抑制と、DRMsからの解離という現象を解除した。従ってこれらの結果は、脂肪細胞でのインスリン抵抗性における代謝性シグナルの低下が、GM3の蓄積によるIRの細胞膜マイクロドメインへの集積抑制が原因であることを示唆している。
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