本研究では、RecQファミリーヘリケースや、我々が発見したワーナー症候群の原因遺伝子産物(WRN)と結合するWRNIP1(Werner helicase interacting protein 1)を中心にして、これらの酵素・タンパク質が関与する過程を解析することによりDNA複製と傷害回避の共役の分子メカニズムの解明を目指した。 昨年度までの酵母を用いた解析で、Wrnip1がDNA polymerase δ(Polδ)、PCNA、RFCと機能的関連をもち、Polδとは直接結合する可能性があることを明らかにした。本年度は、PolδのサブユニットPol31をコードする遺伝子に様々な点突然変異を導入し、非常に多数の変異株を分離し、解析を行った。その結果、増殖に温度感受性を示す変異株では、WRNIP1遺伝子やSGS1遺伝子(WRNの酵母ホモローグ)を欠損させると増殖の欠損が増大し、Polδの機能に欠陥がある場合に、WRNIP1やSGS1(WRN)が重要な役割を果たすことが明らかになった。 ヒトWRNIP1、Polδ、PCNA、RFCを用いた生化学的解析では、WRNIP1がPolδに結合すること、PolδのDNA合成活性を促進し、その促進はDNA合成の開始頻度の上昇によることが明らかになった。また、WRN、WRNIP1が関与する修復経路を解析するためにDT40細胞を用いて種々の遺伝子破壊細胞を作製して解析を行った結果、WRNとWRNIP1は、異なる修復経路で機能することが判明した。さらに、WRNは、XRCC3ではなく、RAD52が関与する組換え経路で機能することや、非相同末端結合修復に関与するKu70とも機能的関連をもつことが明らかになった。
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