活性酸素は細胞内の様々なタンパク質や脂質またはDNAなどを非特異的に修飾しその機能を失括させるものと考えられてきた。また、細胞の寿命が細胞内の活性酸素量によって影響されることなどから、老化などをはじめとする疾患の原因ともいわれている。しかし、細胞膜上の受容体を刺激した時に生じる少量の活性酸素が細胞内のシグナル伝達物質として働いていることが報告されるようになり、活性酸素の正の役割も考慮に入れる必要が指摘されている。しかしながら、すでにセカンドメッセンジャーとしての地位を確立するためには、ターゲットとなる分子を明らかにする必要がある。本申請では、活性酸素のセカンドメッセンジャーとしての役割を確立するために、活性酸素のターゲット分子を明らかにし、その分子がどのような修飾を受けると、機能変化が生じ細胞応答に影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。ラット新生仔心室筋を用い、はじめに、活性酸素の除去が生理応答に影響することを確認した。活性酸素の除去は、酵素をアデノウイルスを用いて発現させる方法を、また低分子化合物を用い活性酸素の生成を阻害する方法の2つを用いた。いずれの方法においても、心臓の肥大に慣用しているとされるアンジオテンシンII受容体を刺激したときのMAPキナーゼの一種JNKのみの活性化が抑制された。JNK活性化までの経路を解析すると、活性酸素は膜に存在するNADPHオキシダーゼが低分子量Gタンパク質のRacによって活性化されているためであることが明らかとなった。しかしながら、現時点ではNADPHオキシダーゼから生成した活性酸素がどの分子を修飾しているのか明らかにできていない。今後、質量分析の手法を用いてターゲット分子の同定を行おうと考えている。
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