研究分担者 |
高濱 和夫 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 教授 (80150548)
甲斐 広文 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 教授 (30194658)
礒濱 洋一郎 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 助教授 (10240920)
徳冨 直史 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 助教授 (30227582)
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研究概要 |
慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)は,未だに有効な治療法が確立していない難治性の慢性呼吸器疾患である.本研究では,COPD治療薬の開発に向けた新たな薬理学的コンセプトを提唱することを目的とし,気道および肺胞上皮細胞の分化制御機構および上皮細胞の機能調節機構について分子生物学的および分子薬理学的に検討している.本年度は,まず,肺胞II型上皮細胞からI型上皮細胞への分化制御機構について調べ,II型細胞に存在する転写因子Sp3がI型細胞への分化に伴い,消失することを見出した.このSp3はaquaporin-5等のI型細胞特異的なmRNAの発現を負に調節しており,Sp3による抑制の解除が分化には必須であることがわかった.また,上部および中部気道では,細胞膜結合型ムチンであり気道炎症時に産生が亢進するMUC1ムチンがtoll様受容体のシグナル伝達を抑制することを見出し,気道粘液が自然免疫系の抑制的調節因子であるというインパクトの高い発見をした.すなわち,気道粘液の産生を制御することは気道の確保のみならず,自然免疫系の賦活のためにも重要である.そこで,昨年度から注目してきた気道粘液産生抑制物質であるグリチルリチンの有効性をラットの慢性気管支炎モデルを用いてin vivoで評価した.その結果,グリチルリチンは副腎皮質ステロイドに匹敵する抗炎症作用と気道粘液産生抑制作用を示したが,体重減少や胸腺の萎縮などステロイド様の副作用を全く示さず,副作用の少ない気道炎症治療薬として応用できる可能性を示すに至った.これらの成績は,従来,ほとんど解明されていなかった気道系の上皮細胞の分化および機能発現を理解する上で画期的な進歩をもたらすとともに,COPDで問題となる粘液過剰産生および免疫異常の治療を考える上では,重要かつ確実な一歩となる基礎データである.
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