研究課題
本研究では、これまでに同定された三種類のPGES(mPGES-1、mPGES-2、cPGES)の生理機能を明らかにすることを目的としており、本年度はmPGES-1欠損マウスを中心に解析した。これまでに本マウスでは、疼痛応答の軽減、血管新生を伴う炎症性肉芽形成の軽減、コラーゲン抗体誘導関節炎による骨破壊の緩和、マクロファージの炎症局所への遊走の低下、移植癌の増殖転移の抑制などが観察されることから、mPGES-1を標的とした薬物が新規抗炎症薬、抗腫瘍薬として有用となり得る可能性を提唱してきた。本年度は、生理的応答や組織保護に関わるPGE_2の生成にmPGES-1がどの程度関与するかについて検討した。1)生殖:PGE_2は雌性生殖器における妊娠の成立と維持に関わることが知られているが、通常飼育下ではmPGES-1欠損マウスに繁殖異常は認められない。そこでLPS誘導早流産モデルを本マウスに施し、生殖への影響を更に検討した。その結果、野生型マウスにおいてmPGES-1の発現はLPS投与後に子宮筋層と胎児膜で増加していたが、mPGES-1欠損マウスのLPS誘導早流産は野生型マウスとの有意差が認められなかった。欠損マウスの子宮筋層ではmPGES-2の発現が増加していたことから、mPGES-2がmPGES-1の機能を代替するものと考えられた。したがってmPGES-1の単独阻害は副作用として妊娠分娩に悪影響を及ぼさないものと考えられる。2)消化管粘膜保護:PGE_2は消化管粘膜保護に重要であり、その生成阻害は潰瘍形成を増悪することが知られている。そこでDSS誘導潰瘍性大腸炎モデルを適用したところ、mPGES-1欠損マウスでは対照マウスと比較して体重減少及び下痢スコアには有意差が見られなかったが、血便スコアが有意に上昇し、下行結腸のPGE_2レベルが有意に減少していることがわかった。また組織学的に、欠損マウスでは大腸粘膜の潰瘍形成が増大していた。以上の結果から、mPGES-1を標的とした抗炎症薬は副作用として消化管粘膜傷害を増悪させる可能性を考慮する必要がある。
すべて 2005
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