研究概要 |
エイズウイルスHIV-1はヒトのヘルパーT細胞に感染後、細胞内の核DNAに組み込まれてプロウイルスとなり、数年にわたり潜伏状態となるが、ある刺激を受けてプロウイルスが転写・翻訳されるとエイズウイルスの増殖が始まる。このエイズウイルスのライフサイクルには種々のウイルス由来、宿主由来の蛋白質が関与しており、エイズ治療法開発の際の分子標的となっている。 本研究では上図に示したエイズウイルス複製のプロセスのなかで、比較的未開拓の、ヌクレオカプシド蛋白質、インテグラーゼ、NFκB、HIV-EP1、Sp1およびウイルス蛋白質HIV Tatに着目した。これらの蛋白質はいずれも亜鉛を含有しているか、亜鉛と密接に関連している蛋白質である。 研究代表者らは、ピリジンと2つのキレート性側鎖からなり、亜鉛と強固に結合する人工化合物の設計と合成を行い、各種の亜鉛蛋白質の機能阻害を達成してきた。本研究ではこれまでに開発した人工化合物の基本骨格をもとに、亜鉛結合置換基や酵素認識官能基の導入を試みた。 平成15年度はピリジン環への芳香族置換基の導入と、キレート側鎖としてシステアミンに加えヒドロキサム酸側鎖の導入を行った。ピリジン4位への芳香族置換基の導入には、ボロン酸とハロゲン化アリールをパラジウム触媒存在下でカップリングさせる鈴木カップリング反応を用いた。この方法でフェニル基、2-トリル基、3-トリル基、4-トリル基、3,5-ビストリフルオロメチルフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、1-ナフチル基、3-クロロフェニル基の種々の芳香族置換基をもつピリジンを合成した。一方、ヒドロキサム酸側鎖は、β-アラニンメチルエステルのエステルを加水分解した後にヒドロキシルアミンを縮合させて合成した。
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