研究概要 |
ダイオキシン類や多環芳香族炭化水素類(PAH)に曝露された培養リンパ球ではaryl hydrocarbon hydroxylase(AHH)活性が上昇し,その誘導能は大きく三群に分かれること,さらにAHH活性の高誘導能群では肺がんリスクが有意に高いことが報告されている.また,ダイオキシン類やPAH類に曝露されたリンパ球ではCYP1A1およびCYP1B1などのCYP1ファミリーが顕著に誘導されることが知られている.これまで,CYP1ファミリーのなかでもCYP1A1はAHH活性の本体であると考えられてきた.AHH活性の誘導能との関連からCYP1ファミリーの誘導能を検討することはダイオキシン類などのがん原物質に対する個人の感受性を評価する上で重要であると考えられる.しかし,ダイオキシン類の曝露が実際にどの程度個体に生体応答を引き起こしているかを定量的に評価する方法は確立されていない.そこで本研究では,ヒトにおけるダイオキシン類曝露による生体応答をCYP1ファミリーを中心として定量的に評価できる方法を確立することを目的とした. 血中ダイオキシン濃度が既知である日本人72名の血液検体よりtotal RNAを抽出し,定量的RT-PCRを行った.塩基配列解析法は直接塩基配列決定法を用いた.全検体より抽出したtotal RNAより定量的RT-PCRを行い,血球中おけるCYP1A1 mRNAおよびCYP1B1 mRNAの発現を検討したところCYP1B1 mRNAはほぼ全ての検体において発現が認められたのに対してCYP1A1は検出限界以下であった.さらに,血中ダイオキシン濃度とCYP1B1 mRNAの発現量との相関を検討したところ,その誘導能には個人差が存在し三群に分類されることが明らかとなった.これらのことより血球中におけるAHH活性の本体はCYP1A1ではなくCYP1B1である可能性が示唆された.さらに,CYP1B1 mRNAの発現量の個人差に影響を与える原因を解明するため全検体のゲノムを用いてCYP1B1遺伝子の5'-上流約-5kから3'-UTRまでの塩基配列を解析した.その結果,CYP1B1 mRNAの発現量と有意に相関する変異は存在しなかった.現在,CYP1B1 mRNAの発現量の個人差に影響を与える他の要因について検討している
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