薬物毒性は、薬効に優れた医薬品の市場からの撤退や臨床試験中の脱落など、医薬品開発における最重要課題である。薬物毒性に関わる因子は様々であり、一般的な毒性からidiosyncraticな毒性まで、そのメカニズムの解明が求められる。本研究では細胞内外の薬物移行に働くトランスポータータンパク質に着目し、それらの吸収、組織移行、腎・肝排泄との関わりについて、ならびにその活性変動因子についてなど多面的な解析を行った。対象とした組織は消化管、精巣、脳、肝臓、腎臓、血球、ならびに腫瘍組織である。 消化管吸収に関与するトランスポーターとして薬物輸送活性を有した分子を含むOATPに着目した。その結果、OATP-Bがヒト小腸上皮細胞刷子縁膜に発現すること、及びpH依存的な活性を示し、薬物の消化管吸収に働いていることを明らかにできた。 組織移行としては、血液脳関門ならびに血液精巣関門に着目し、両関門を構成する脳毛細血管内皮細胞ならびにセルトリ細胞における物質輸送機構を解析した。 排泄組織として肝臓に着目し、アニオン性薬物の肝排泄に働くOATP-C(SLC1B1)について検討を行った。OATP-Cは肝毒性の問題により市場から撤退したトログリタゾンとその代謝物、あるいは代謝産物の胆汁中排泄による消化管毒性が問題となる抗癌剤のイリノテカンの代謝物など種々の薬物ならびに代謝物の膜輸送に働くことを見出した。さらに、遺伝子多型の一つであるOATP-C^*15は、一塩基変異により輸送活性が低下し、OATP-Cの基質においては遺伝子多型により肝移行性が変動するために薬効・毒性にも影響することが推測された。 その他、腎臓、血球、ならびに腫瘍細胞におけるトランスポーター活性について検討を行い、薬効・毒性に対する影響について有用な情報を収集し、その論文化による一般への情報提供を行うことができた。
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