キチナーゼファミリー蛋白は、N-アセチルグルコサミンに選択的親和性をもつレクチンである。キチン分解活性をもつものとして、acidic mammalian chitinase (AMCase)とキトトリオシダーゼが哺乳類で同定されている。分解活性をもたない蛋白は数種類存在するが、本研究ではYm蛋白とbrp-39を選び、それぞれの発現細胞の同定を行った。AMCaseは耳下腺の腺細胞と胃粘膜主細胞の分泌顆粒中に含まれ、唾液および胃液中に分泌されることを蛋白レベルで証明した。一方、ウシのそれは肝臓で産生され、血中に分泌される。ウシの血中キチナーゼは原虫感染に伴い血中濃度が上昇することから、微生物・寄生虫感染に対する防御作用をもつことが示唆された。キトトリオシダーゼはヒトではマクロファージと好中球に発現するが、マウスでは口腔内の重層扁平上皮に発現し、予想されていた生体防御とは異なる機能が想定された。Ym1は、骨髄・脾臓(胎児の肝臓)といった造血組織において、未分化好中球に強く発現しており、成熟するとともに消失した。そのほか骨髄では、stromal cellであるマクロファージ内にYmを含む結晶が頻繁に観察された。Ymは肺では肺胞マクロファージで産生され、肺胞腔内に分泌されると思われた。肝臓に寄生するM.Cortiの感染実験では、肝臓の虫体を取り囲んでYm含有の炎症性細胞の浸潤が見られるほか、肺胞マクロファージの肥大・巨細胞化が顕著であった。brp-39は軟骨内骨化巣における軟骨細胞に、乳腺では離乳期の乳腺細胞に選択的に発現していた。乳腺での発現は授乳期にはまったくないことから、乳腺の退縮か退縮に伴う組織再構築に関与すると思われた。
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