低酸素・虚血・再灌流そして細胞死に関わる種々の分子のダイナミクスを相互に関連づけるために、これらの分子の細胞内動態を超高解像度で画像化できる多波長蛍光・分光同時測定システムを新規に開発した。このシステムでは、細胞の蛍光画像と分光画像をほぼ同時に獲得できるよう透過蛍光光学系を採用した。これまでは、透過蛍光測定は励起光が蛍光に重畳するため、両者の分離が難しく実用的ではないと考えられてきたが、最近開発されたブロッキングに優れた干渉フィルタを蛍光側に用いる事により、実用上全く問題ない低バックグランドの蛍光画像を得る事が可能なことがわかった。また、励起光の強度も通常の落射蛍光光学系に匹敵した。つづいて、このシステムを用い細胞のタイムラプス多波長蛍光画像測定ソフトウエアを開発した。GFP(緑色蛍光タンパク)を一過性発現させた培養細胞(COS7)に、さらにミトコンドリアの蛍光プローブであるMitoTracker Redを導入し、本システムの性能評価をおこなった。申請者が以前報告した、低酸素環境下でのGFP蛍光の赤色シフト(11.研究発表-雑誌論文参照)とミトコンドリアの細胞内ダイナミクスを動画として得る事が可能であった。また、興味深い点として、ミトコンドリアの画像化に際し、数学的共焦点法(deconvolution法)が、通常の落射蛍光画像と比べ、透過蛍光画像においてより効果的であった。これは、透過蛍光法の利点のひとつと思われた。 以上より、多波長蛍光・分光同時測定の可能な顕微鏡システムが、透過蛍光光学系を用いる事で可能な事を明らかにし、交付申請書に述べた本年度の研究計画を達成したと考える。
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