これまで米国のグループが、胃酸分泌に関わるCl^-チャネルの実体はCLC-2であると報告していた。しかし本研究で、胃酸分泌細胞にはCLC-2ではなくCLC-5が発現していることを発見し、胃酸分泌機構におけるCLC-5の生理機能について研究を進めた。得られた主な新規知見は以下の通りである。 1.ウサギ胃粘膜切片における免疫組織二重染色により、CLC-5タンパク質は、胃酸分泌細胞の分泌膜および細管小胞膜に発現しているものと考えられた。 2.胃プロトンポンプに富むブタ胃細管小胞に、CLC-5タンパク質が発現していることを見出した。可溶化した胃細管小胞サンプルを、抗胃プロトンポンプ抗体で免疫沈降後、抗CLC-5抗体でウエスタンブロットを行ったところ、CLC-5のシグナルが検出できた。 3.CLC-5の発現を調節することが可能な胃プロトンポンプ安定共発現細胞(T-RExシステム)の構築に成功した。CLC-5の分布と胃プロトンポンプの分布のパターンは同様で、原形質膜上において共発現していることがわかった。免疫沈降法により胃プロトンポンプとCLC-5とが分子会合していることを明らかにした。 4.上記のCLC-5安定発現細胞における細胞表面ビオチン化実験で、原形質膜上の胃プロトンポンプタンパク質の発現量は、CLC-5の発現により変化しないことがわかった。しかしCLC-5の安定発現により、胃プロトンポンプのATPase活性、^<86>Rb^+の細胞内取込み量、および胃プロトンポンプのリン酸化(EP)レベルが有意に上昇した。 以上の結果から、CLC-5は、胃プロトンポンプと分子会合し、プロトンポンプのEPレベル上昇を介して、ポンプ活性を増大させることが明らかとなった。すなわちCLC-5が、胃プロトンポンプの新規アップレギュレーターとして機能しているものと考えられた。
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