研究概要 |
慢性に測定器具を埋め込んだ意識下ラットを用い,重力変化時の自律神経応答および循環応答における圧受容器と前庭の役割を調べた。前庭破壊+圧受容器除神経ラットでは,3Gの過重力負荷に対し交感神経活動は変化せず,動脈血圧は8mmHg低下した。この低下は,過重力による血液シフトにより,静脈還流量,心拍出量が減少したためである。圧受容器だけが正常なラット(前庭破壊ラット)では,交感神経活動が軽度増加し(+25%),動脈血圧は変化しなかった。すなわち,血液シフトにより低下する動脈血圧が,圧受容器反射による交感神経活動増加により一定に保たれていることが分かる。一方,前庭だけが働くラット(圧受容器除神経ラット)では,交感神経活動が大きく増加し(+87%),動脈血圧も大きな上昇(+31mmHg)を示した。両方の調節系が働く正常ラットでは,交感神経活動の増加(+38%)と動脈血圧上昇(+9mmHg)とも,前庭だけが働くラットに比べ小さく抑えられていた。これらの結果を基に,重力変化時の動脈血圧調節系のブロック線図を描き,伝達係数を求めた。このモデルでは,重力変化に伴って起こる動脈血圧低下に対し,前庭系は前もって交感神経活動を増加させて動脈血圧低下を最小に保つように働く。しかし,その調節は動脈血圧の変化に基づいた調節ではないため,制御誤差が生じる。その誤差は,ネガティブフィードバック系である圧受容器反射により補正される。前庭を介する動脈血圧調節系のゲインは11.5と圧受容器反射のゲイン8に比べ大きいため,過重力負荷時には前庭系の働きが勝り,動脈血圧が増加する。さらに,この応答の中枢経路を調べるため,過重力負荷による中枢のFos発現を調べた。前庭神経核,第III脳室室傍核などに有意なFos発現が見られた。前庭神経核と室傍核の間で除脳すると,過重力負荷時の動脈血圧応答が見られなくなることから,前庭-動脈血圧調節系の中枢経路に室傍核が関与していることが分かった。
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