研究概要 |
平成17年度の研究で,過重力負荷に対する動脈血圧応答に前庭系が重要な役割を果たしていることを報告した。従って,微小重力に対する動脈血圧応答にも前庭系が関与している可能性がある。しかし,前庭系の関与は意識下動物でのみ顕著であり,麻酔によりその関与はほとんどみられなくなることから,慢性に測定器具を埋め込んだ意識下ラットを用いて実験を行った。日本無重量研究所における自由落下により,4.5秒の微小重力曝露を行った。微小重力暴露により動脈血圧は38±4mmHg増加した。この増加は圧受容器除神経(40±7mmHg)では有意な影響を受けなかったが,前庭破壊(20±2mmHg)あるいは圧受容器除神経+前庭破壊(21±2mmHg)により有意に抑制された。しかし,これらの除神経によってもまだ有意な動脈血圧増加が認められた。これらのラットは,ケージ内で自由に行動でき,微小重力中は体が浮遊しているため,体性感覚からの入力が変化する可能性が考えられる。従って,ケージの天井を低くして体が浮遊しないケージを用いて同様の実験を行った。圧受容器除神経+前庭破壊ラットでは動脈血圧は全く変化しなかった。従って,意識下,自由行動ラットにおける微小重力暴露に対する動脈血圧応答に,前庭器官および体性感覚からの入力が重要な働きを果たしていることが明らかになった。これまでの3年間の研究を基に,重力変化に対する循環,自律神経,中枢応答に関し以下の要素を抽出し,モデルを作製した。 ・微小重力⇒胸郭拡大による胸腔内圧減少⇒胸腔内血管の経壁圧増加,静脈還流量増加,心拍出量増加⇒心肺領域容量受容器,圧受容器刺激⇒交感神経活動減少 ・微小重力⇒静水圧差消失⇒頭部環流圧増加,頭蓋内圧増加⇒頭蓋外頭部血流増加,脳血流自己調節により頭蓋内頭部血流増加は軽度 これらの要素に加え,意識下では前庭系の役割が重要になる。 ・微小重力⇒前庭を介する反射⇒動脈血圧増加 ・微小重力⇒体性感覚を介する反射⇒動脈血圧増加 ・過重力⇒前庭器官⇒前庭神経核⇒第3脳室室傍核⇒交感神経活動増加⇒動脈血圧増加⇒圧受容器反射による補正
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