研究概要 |
重力変化に対して,生体は種々の適応を試みる。特に,循環系は,重力変化に伴って静水圧差が変化し,静脈還流量と心拍出量が変化して,動脈血圧が変化する。これらの変化に対して,種々の調節系が働き,循環系の変量を一定に保つ。麻酔下ラットを用いた微小重力実験において,30°頭部挙上では頭部環流圧(頚動脈圧-頚静脈圧)は23mmHg増加するが,0°腹臥位では変化しない。したがって,微小重力に対する頭部環流圧の応答は静水圧差の解消に伴って起こることが分かる。頭部環流圧増加に伴い,虹彩や側頭筋などの頭蓋外頭部血流量は50〜80%増加するが,皮質血流量の増加は15%程度に抑えられる。一方,過重力負荷に対しては,前庭を介する動脈血圧調節が重要となる。過重力負荷により,循環血液のシフトが起こり静脈還流量と心拍出量が減少し,動脈血圧が低下する。このような循環系変化に対し,前庭は交感神経活動を増加させて動脈血圧を増加させるように働く。この作用は動脈血圧低下に基づいたものではなく予測制御的(ネガティブ・フィードフォワード的)である。すなわち,重力変化は前庭で感知され,次に起こるであろう動脈血圧低下に対して,あらかじめ交感神経活動を増加させて,動脈血圧を増加させる。したがって,作用発現は迅速であるが制御誤差が生じる。この誤差はネガティブ・フィードバック制御である圧受容器反射により補正される。以上,重力ストレスにより,静水圧差の変化が起こり,重力方向に従った血液シフトが引き起こされ,動脈血圧が変化する。この動脈血圧変化は,前庭-交感神経反射と圧受容器反射により補正されるが,前庭-交感神経反射はネガティブ・フィードフォワード調節系であるが,圧受容器反射はネガティブ・フィードバック調節系である。
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