研究概要 |
ET-A受容体拮抗薬YM598の長期投与が慢性心不全の運動耐容能の低下を改善するかをトレッドミル運動負荷試験により検討した.予めトレッドミルに馴化させたラットを用い,冠動脈結紮による心筋梗塞後心不全(CHF)モデルラットを作製した.梗塞の急性期を過ぎた術後10日よりYM598を約25週間,経口投与した.YM598投与後20週と24週にトレッドミル運動負荷試験を実施した結果,YM598はCHFラットにて減少した走行時間を延長させた.YM598投与後25週の死亡率は,偽手術(Sham)群では1例の死亡も認められなかったのに対し,蒸留水を投与したCHFラットの死亡率は47.6%であった.一方,YM598を投与したCHFラットの死亡率は7.1%であり,YM598の長期投与により死亡率が著明に軽減された(p=0.013).生存したCHFラットとShamラットの心肺重量を測定した結果,CHFラットの左心室重量体重比,右心室重量体重比,肺重量体重比はShamラットに比べ有意に増大し,左心室ならびに右心室の肥大と肺欝血が生じていた.YM598の長期投与は両心室肥大と肺欝血を著明に抑制した.また,生存したCHFラットとShamラットの心機能を測定した結果,CHFラットでは左心室内圧最大一次微分値が低下し,左心室拡張終期圧,右心室内圧および中心静脈圧が有意に上昇していたことから,CHFラットにて左心室収縮・拡張機能の低下,肺高血圧ならびに全身性欝血が生じていた.YM598の長期投与はShamラットと同程度まで心不全ラットの左心室収縮・拡張機能を改善し、右心負荷を軽減した.また,YM598の長期投与により左心室残存心筋の線維化も抑制された.従って,慢性心不全ラットにてYM598の長期投与は運動耐容能の低下を改善し,死亡率を減少させると共に心筋リモデリングを抑制し,心機能を改善することが示された.
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