近年の研究により、核内レセプターがコレステロール胆汁酸代謝環境のセンサー及び標的遺伝子の発現を介するそれらの代謝の調節因子として機能することが明らかになった。胆汁酸に応答する核内レセプターとして、FXR、VDR、PXRなどが知られているが、胆汁酸代謝調節におけるそれぞれの役割は十分には解明されていない。我々は、胆汁酸代謝における機能がほとんど解析されていないビタミンD受容体VDRに焦点をあて、生理的リガンドであるリトコール酸とVDRの構造活性相関を検討した。リトコール酸の様々な誘導体のVDRに対する効果を検討した結果、リトコール酸の3α水酸基の修飾がVDRに対する活性に重要であることが明らかになった。調べたリトコール酸3α水酸基誘導体の中で、リトコール酸アセテートが最も強力にVDRを活性化した。この誘導体は、リトコール酸よりも少なくとも30倍以上強力にVDRを活性化したが、他の胆汁酸誘導体FXRやPXRに対してはほとんど効果がなかった。リトコール酸アセテートは大腸がん由来細胞において、リトコール酸よりも効果的に胆汁酸代謝酵素CYP24AやCYP3AなどのVDR標的遺伝子を誘導した。マウスへリトコール酸アセテートを経口投与した結果、小腸粘膜におけるVDR標的遺伝子CYP24A及びCYP3Aの発現は増加したが、FXR標的遺伝子である胆汁酸結合タンパク質IBABPの発現は変化しなかった。これらの実験結果は、リトコール酸の3α水酸基の修飾は、VDRに対する活性を選択的に増加させることを示している。VDR選択的な胆汁酸誘導体とVDRとの構造活性相関を解析することは、VDR選択的な生理的胆汁酸の探索に応用でき、またこのような誘導体を利用することで、VDR選択的な胆汁酸代謝調節機構を解析することができる。 今後は、FXRなどの他の核内レセプターと胆汁酸との構造活性相関、及びレセプター特異的胆汁酸を利用する代謝制御機構の解析などを行う予定である。
|